2015年4月18日

血液のがん「多発性骨髄腫」、共存の時代へ

多発性骨髄腫は骨の中にある骨髄で異常な細胞が増える血液のがんだ。腰痛だと思ったらこの病気だったというケースもある。治療の難しい病気の一つだが、最近はさまざまな薬が登場するなど治療法も進歩している。専門家は「患者と医師らが協力し、病気とうまく付き合っていけるとよい」と話している。

多発性骨髄腫は中高年に多く、女性より男性患者がやや多いとされる。年間10万人あたり3~4人が発症し、国内の患者数は約1万3000人とみられる。

発症の原因は、骨髄の中で免疫に携わる形質細胞と呼ぶ細胞のがん化だ。通常は全身の複数の骨が侵されるために多発性骨髄腫と呼ばれている。この異常でがん細胞が増えると、赤血球や白血球をつくる役割を持つ造血幹細胞が減り、貧血や免疫力の低下などを引き起こす。

■健康診断で発見

異常なたんぱく質ができて腎臓内で詰まり腎不全になったり、骨を溶かす破骨細胞が刺激されて骨がもろくなったりするケースもある。国立国際医療研究センターの三輪哲義・血液疾患特任診療部長は「腰痛で整形外科に通っていたら、実は多発性骨髄腫だった人もいる」と話す。

本人に自覚症状がなく、健康診断などで病気が見つかる場合も多いという。千葉県在住の中雄大輔さん(50)もその一人だ。2004年に会社の健康診断で血液中のたんぱく質の量が多いと診断され、検査をすると多発性骨髄腫の前段階にあると分かった。2年の経過観察の後、異常な細胞の活動が活発化し、幹細胞を移植する治療を受けた。

多発性骨髄腫の治療は、中雄さんのような65歳以下では「自家造血幹細胞移植」と呼ぶ方法を実施する例が多い。これは最初に正常な幹細胞を取り出しておき、抗がん剤で骨髄内の細胞を全て除去した後で、幹細胞を体の中に戻して骨髄を再生する。

治療効果は高いが骨髄が再生するまで感染症の危険があり、一定の体力が求められる。65歳超の患者は薬物治療が主になるが、本人の体調次第で移植をする例もあるという。細胞移植をした後も薬を投与し、再発防止を目指す。中雄さんも現在も週1回通院し、薬の投与を続けている。

薬物治療も進歩し、近年はさまざまなタイプの薬が登場している。三輪部長は「基礎研究が進み、治療にいろいろな戦略が取れるようになってきた」と話す。

たとえば、プロテアソーム阻害剤と呼ぶ薬は異常細胞が自らに有害なたんぱく質を分解する仕組みを壊し、細胞を殺す。06年に保険適用されたボルテゾミブが使われている。カルフィルゾミブという薬も国内で臨床試験が進んでいる。

約50年前に胎児に重大な薬害をもたらしたサリドマイドも、多発性骨髄腫の治療に使われる。その後の研究で、異常細胞が周囲に血管を呼び寄せて栄養をとろうとするのを阻む作用が見つかったためだ。

サリドマイド以外に、直接細胞を殺す作用を併せ持つレナリドミドという薬もある。治療効果がさらに高いポマリドミドも今年3月に国の承認を得た。これら3種は厳重な安全管理の下で使うことになっている。妊娠中の患者は使用を避ける。

こうした薬以外でも実用化に向けた取り組みが進む。多発性骨髄腫を発症すると生存期間が3年程度といわれてきたが、今は「10年以上のケースもある。普通に仕事や家事を続けられる人もいる」(三輪部長)。

■最新情報収集を

日本医科大学の田村秀人准教授も「多発性骨髄腫の根治は難しいが、共存していく考え方がこれからは重要だ」と強調する。最新の治療法でがんの増殖などを抑えつつ、薬が効きにくくなったら新たに登場した薬を使う方法で、生存期間を延ばせる可能性があるからだ。

そのためにも患者やその家族は、治療法の最新動向などをつかんでおくとよい。中雄さんは発症後、海外の文献を読み進めて多発性骨髄腫について猛勉強した。診断を受けた当初は「生存期間は3年程度」という言葉に落ち込んだが、家族の「3年の時間は泣いて暮らすには長すぎるよ」という言葉をきっかけに、気持ちを切り替えたという。

現在、中雄さんは仕事の傍ら、多発性骨髄腫の患者や家族らでつくる「日本骨髄腫患者の会」の理事を務めている。患者の会は治療法に関する勉強会を開いたり、情報誌を発行したりしており、こうした情報に触れるのもよいだろう。

多発性骨髄腫を発症した人は「まず自分の病状をよく理解することが大事だ」と中雄さんは強調する。三輪部長も「どんな症状でも主治医にきちんと相談してほしい」と訴える。医師と患者が協力しながら、病気に対処する姿勢が欠かせない。

(出村政彬)

[日本経済新聞夕刊2015年4月3日付]

[日本経済新聞 http://www.nikkei.com/article/DGXKZO85238960T00C15A4EL1P01/]